理系と文系のπ型人間

 小学校のときから理数科目が得意かつ大好きで、小説は苦手、放課後は海で遊び、家に帰ればレゴに夢中になっていた男は、その後当たり前のように理系の道を志し、当たり前のように理学部に入学し、当たり前のようにそのまま大学院へ進んだが、ここにきて「自分が理系である」という前提には根拠が無いことに気付き、そのことに違和感を感じ始めた。気付くのおせーよ。
 自分は勉強が好きで、分析や研究がやりたい、という点に関してはこれまでと変わらない。だけどそのために勉強するのは、理学の分野である必要はなく、経済学、法学、人文学、教育学の分野でもいいのではないだろうかと思うようになった。なぜなら、常に根源的なもの、メタなものを追究したいと思っている僕が、

究極だと思っていた自然科学の研究が、究極的には経済状況や教育制度や世論によって制限されている

ということが明らかになった今、もはや自然科学だけに夢中になる動機は無いからだ。
言い換えれば、

「なぜ自然がこうなっているか」

ということよりも、

「なぜ『なぜ自然がこうなっているか』ということを研究できるのか」

ということのほうが根源的で面白いと感じるようになってきたということだ。科学政策、科学倫理、教育制度、といった問題がこの興味に答えてくれる学問分野であると思う。
 言うなれば文転。が、そんな一朝一夕にできるものではない。やりたいことをやるために思い切って環境を変えるというのも有力な選択肢であるとは思うが、研究計画や奨学金などが二ヵ年計画で進んでいることを考えれば、少なくとも卒業まであと二年弱は今の分野での研究を続けるほうが無難だ。どちらにせよ今の研究を一通り修めて「自然科学が何たるか」を知る必要はあるしね。となれば問題はその二年の間に何をし、その後どういう進路を選ぶか、ということだ。
 欲しい情報がいつでも手に入るこれからの時代、情報をただ「知っている」ことには何の価値も無い。調べれば答えが出るから。代わりにこれから必要なのは、情報と情報を「結びつける」能力だ。調べれば出る二つの答えの間に新しい関係を見出す、これは今のところコンピュータにはできない。そのような意味で、これからは二つ以上の専門領域を持つπ型人間が必要とされてくる時代だと言われている。卒業後僕がどのような進路を取るのかは正直今は想像もできないが、とりあえずこの二年は院での研究を進めつつ、独学で文系分野を勉強し、「生物学」と「科学・教育政策」の二つの領域に関して一通り修めたいと思う。文転するにせよ、しないにせよ、必ず将来必要になる知識であるはずだ。