グループディスカッション攻略法
グループディスカッションは就活における最初の関門だと思う。筆記試験や小論文を通過しても、ここを乗り越えられなかったら個人面接までたどり着けない。つまり「応募集団の中の一人」から抜け出し、個人としての自分を見てもらうためには、ここを越えないと始まらない。そういうわけで、ここまでコンサルを何社か受けて(そして落ちて)、個人的に思った、就活におけるグループディスカッションの攻略法をまとめてみた。
何が見られていて、どういう能力が必要なのか
グループディスカッション(以下GD)は、普段考えたことも無いような問題を、数分前に初対面した人達と話し合って解決するという、非日常の究極形態のような場だ。チームのそれぞれが問題の解決という共通の目標を持った仲間でありながら、選考上のライバルでもあって、場は異様な雰囲気になる。面接官を前に、やたらとみんな発表したがるし、リーダーをやりたがる。日常でこんな議論あったら気持ちが悪すぎる。一体目的は何なのか。GDで、どのような資質が見られているのだろうか。
結論としては、論理力、発想力、枠組力、要約力、緩衝力の五つが、GDで必要であり、見られている資質なのではないかと思う。
論理力
これは言うまでもなく必要な力だ。僕は論理力を、「自分の意見の根拠を言葉にできる力」と定義している。この能力がなければ、自分の意見に納得してもらえないだけでなく、だらだらと何を喋っているか分からない状態になって貴重な時間を無駄にしてしまい、全体に迷惑がかかってしまう。
論理力を身につけるのはそんなに難しいことでは無いと僕は思う。というより、「論理力」などという資質は存在しなくて、「自分の意見について深く考えているかどうか」が問われているだけなのだと思う。普段から興味を持って考えていることは、誰だってしっかりした根拠を伴って口にできるはずだからだ。
発想力
発想力とは、議論に新しい視点を追加する能力だ。この能力が活躍する状況は2つある。
一つは、議論の一番初めに、お互いの思いつきを乱打する場面(いわゆるブレインストーミング)だ。GDは時間が限られていることもあり、初めに出てきたたくさんの案をベースに、無駄なものをだんだんと潰していく、というパターンで議論が進む場合が多い。だから、たくさんのアイデアを引き出すことができれば、それだけ多くの可能性を検討することができて、よりよい結論に到達できる可能性も高くなる。
発想力が活躍するもう一つの状況は、議論の視点がだんだん狭まってきて先が見えなくなってきたときだ。一旦議論の方向性が決まってしまうと、先入観ができあがってしまい、最初のようなニュートラルな発想ができなくなる。こういうときに、別の考え方を供給できる人がいれば、議論が膠着状態に陥ってしまう可能性を避けることができる。
先日僕が経験したGDでは、商品の値上げをするかどうかで意見が分かれていたところで、「時期ごとに値段を変えればいいのではないか」というアイデアを出してきた人がいて、それが「地域ごと、顧客ごとに値段を変えるのも考えられる」と発展して次の議論に繋がったということがあった。
枠組力
枠組力には「マクロ枠組み力」と「ミクロ枠組み力」があると思う。
マクロ枠組み力は「大まかな議論の方向性を決められる力」のことで、GDの一番最初に「こういう方向でこの時間配分で考えるのはどうでしょうか」と言ったり、ホワイトボードに座標軸を書いて「これを埋めながら考えましょう」と言ったりする能力のことだ(日常の議論でこんな偉そうな口を叩く奴は見たことがないけど)。枠組みの提示というのは、ハイリスクハイリターンで、良い意味でも悪い意味でも、その後の議論を枠組みの中に閉じ込めてしまう。良い枠組みを提示できれば、チームは迷い無く結論を導き出すことができるが、そうで無い場合は、議論をあらぬ方向に導いてしまう。それだけに、枠組みを提示するには勇気が必要だ。ちなみにこれまでの経験上、最初に提示された枠組みが採用されることが多い。要は言ったもん勝ちだということだ。もしかするとマクロ枠組み力の本体は、勇気と自信だけなのかもしれない。
一方で、ミクロ枠組み力は、枠組みから議論が脱線しだしたときに、それに気づいて、議論を再び枠の中に押し戻すことができる能力だ。見当違いのことを話し始めた人を抑えることはもちろん、議論が細かくなりすぎている(理系の人が多いとこうなりやすい、後述)ときや、抽象的になりすぎているときに、議論の階層をコントロールできることも、GDで見られている重要なポイントであると思う。そのためには、常に議論の目的を頭に置き、メタな視点から議論を捉えなおす意識が必要だ。
要約力
GDではとにかく時間が無い。実際の仕事も時間制限はあるだろうけれど、性格も経歴も分からない初対面の人と議論して、30分とかで結論を出すと言うのは、かなり無理のある作業だ。それだけに、議論が堂々巡りにならないように、適宜要点を整理し、確認することはとても重要だ。また、GD後にプレゼンしたり突っ込みタイムがあったりするような場合、ごちゃごちゃ話していたことをまとめ上げて簡潔に話すことができるかどうかで、面接官の印象も変わってくるだろう。
ただ、言わなくても分かりきっていることをわざわざ口に出して確認するのは時間の無駄でしかない。本人はまとめた気になっているかもしれないけど、他の人から見ればそういうのはウザいだけだ。見られているのは、議論が細かくなり、誰も全体像を把握できないくらい複雑になってきたときに、これまでの流れをまとめ、分かったことと、分かってないことを提示することができるかどうかだ。
緩衝力
議論は、単なる文章とは違い、人間同士のコンタクトだから、少なからず感情的なものが挟まってくる。この感情的な側面を考慮しながら議論を進めていける力が緩衝力だ。相手の話を真剣に聞く、攻撃的に否定しない、話すときは目を見る、ハキハキゆっくり話すといったことはわりと基本なので、そんなに差がつくところでは無いと思う。身振り手振りを加えたり、すこし笑いをとったり、間をおく話し方ができたり、発言量の少ない人を気遣えたりすると、僕自身「おっ」って思うし、面接官も「おっ」って思うだろう。いくら文章上ですばらしい議論ができたところで、面接官に「こいつとは働きたくないな」と思われたら意味が無い。
ただこの能力は、先天的な要素が多い気がするので、演技するくらいなら、普段どおりの自分で議論に集中したほうが良いと思う。
自分の立場を知る
5つの資質を挙げたけれど、これを全て習得する必要は無いし、そんなのは無理だと思う。重要なのは、自分にどの能力があって、どの能力が無いかを自覚し、自分に合った立場でGDに臨むことであると思う。仕事のできる人というのは、何でも自分でやろうとする人ではなくて、自分の足りない部分をちゃんと自覚していて、そこをもっと上手な人に任せられる人のはずだ。
ただ、一朝一夕に自分の立場が分かるようになるわけではない。やはり、GDの回数を重ねて、ちょっとずつ自分の立ち位置が見えてくるものなんじゃないかと思う。僕も最初はリーダーをやって失敗したりしたけど、今は、自分の枠組力の少なさを自覚しているし、発想力は課題、要約力は強み、緩衝力はまあ普通なんじゃないかと思っている。
まぁ、要約力が強みといっても、GDの緊張状態の中でクリティカルな要約を出すのは無理なんだけどね。毎回GDが終わるたびに「ああ言えばよかった症候群」にかかって自己嫌悪になる。
理系院生の弱点について
コンサルのGD会場で会う人の7割くらいが理系院生だ。それだけコンサルが人気なのか、それとも理系冷遇に絶望する人が多いということなのだろうか。いずれにせよ、「文理」という糞みたいな区分けが無くなっていくことは僕はとても良いことだと思う。ただ、やっぱり、GDをしていると、理系院生には共通の「理系らしさ」があるなーと感じてしまう。
それは、「本当か嘘かを真剣に考えすぎる」ということだ。別の言葉で言えば、「答えが無い世界に慣れていない」といえるだろう。自然科学というのは、白黒がつけられない世界の中で、無理やり白黒をつけることが許されている領域にすぎない。世の中の課題の大半は「1年で○○の売り上げを○%増やしたい」といった、実証も反証もできない課題で、科学的な方法で解決することはできない。どこまで考えても「それが本当か分からない」という不安を取り除くことはできないからだ。
そのような課題に、研究真っ盛りの理系院生が取り組むと、細かい点にこだわりすぎて議論の大枠がないがしろになったり、時間内に結論までたどり着かなかったりする。例えば、「本当に可能性を網羅できているか考え直そう」とか「全ての案の良い点悪い点を列挙してから検討しよう」みたいなんは、理系の考え方としては当然過ぎるし、時間があるならやるべきことだけど、そもそも「限られた時間で答えの無い問題に答えを出す」のだから、そこにこだわるのは危険なことだ。多少いい加減でも我慢して、思い切った決断を連発しないと最後までたどり着かない。パレートの法則によれば、80%の完成度は、100%の完成度を目指すときの20%の努力量で達成できるはずだ。
あと、これは弱点というのか分からないけど、やっぱし理系院生は研究が忙しい。文系の学生と比べると就活に割ける時間は格段に少ないと思う。この前のGD会場では、「俺昨日2時まで実験だったんすよ」って言ったら、「俺は6時までやってたわ」という返答が返ってきて負けたと思った。みんな無い時間を振り絞って就活してんだな。特に、コンサルを受けにくるような人は、「激務万歳」みたいな人ばっかりだから、研究にも真剣に取り組んでいる人が多いと思う。
結局経験が重要
結局就活だって経験がモノをいうのだと思う。受験と違って小手先のテクは通用しないから、本当の実力が試される、みたいに思ってた時代もあったけど、やっぱり、就活にもテクがある。むしろ、そういうテクを学んでくることが推奨されているのだろうと思う。例えば、こうやってGDの対策を考えたり、ケース面接の対策を考えたりすること自体、自分の社会的役割を自覚したり、視野を広げたりするのに役立っている。「等身大の自分」の存在を信じている人は、そんなものは存在しなくて、これから自分で作っていくものだということに今すぐ気がつくべきだ。
それから、「成功イメージ」をつかむためにも、経験は必要だと思う。初めてGDに参加したとき、僕はどうなったら「めでたし」なのかがイメージできなくて、今議論がどういう状況に置かれているのかが全く分からなかったんだけど、回数を重ね、GDの定番パターンみたいなのが分かってきて、時間配分や自分のポジションを、そして攻略法を考える余裕が出てきた。
ベタな意見だけど、就活は早く動けば動くほど良いと思う。新卒採用の時期が早くなってきていること、大学が就職予備校化していることに異論が出ているけど、僕はむしろ大学一回生から就職活動を真剣に考える機会を与えたほうが良いのではないかと思う。今の大学生は遊びすぎだから、社会について早くからもっと真剣に考えたほうが良い。僕自身、もっと早くから関心をもっておけば良かったと後悔している。