無料を利用しなければ利用される

本読んだ。

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

インターネット上に溢れる無料サービスの仕組みや、それが世の中をどう変えていくかといったことを論じた本。割と有名な本ですね。
 まずメタな感想として、これはハードカバーを読むといつも感じることなのだけれど、情報量に比べてページが多すぎると感じた(350ページ)。確かに、具体例や逸話や推察が盛りだくさんで、具体的なイメージを持って読むことができるのは良い点なのだけれど、一つ一つのテーマについての解説が長すぎて、「もう分かったから次に進んでくれよ!」という気分にさせられる部分が多く、何箇所か我慢できずに読み飛ばしたりした。
 コンパクトにまとめれば、同じ情報量で新書サイズにすることが思う。というか、あらゆる主張は新書以内の長さで記述することができると思う。新書サイズに収まりきらないのは、往々にして、筆者の「あれもこれも書いておかないと気が済まない!」という意識が強すぎるせいだと僕は思っている。


 さて、中身の感想。無料にまつわる話は色々知っていたので、これといって目新しいことはなく、自分の知識を確認しながら読む感じだったが、一つ印象に残ったのは、「あるものが無料あるいは無限になることでより高次元の有限なものの重要性が増す」というくだり。つまり、

・HDD容量が無限(同然)になったことで、情報を収集する時間の重要性が増す
・CPU速度が無限(同然)になったことで、PCインターフェースの美しさの重要性が増す
・回線速度が無限(同然)になったことで、情報を取捨選択することの重要性が増す
・ネット回線が無料になったことで、ネットで行う活動内容の重要性が増す
・ウェブ検索が無料になったことで、収集した情報を扱うことの重要性が増す
・動画サイトが無料になったことで、動画で伝える内容の重要性が増す
・音楽MP3が無料になったことで、ライブに行くことの重要性が増す
スカイプで電話が無料になったことで、直接会う時間の重要性が増す
・情報発信が無料になったことで、情報の信頼性の重要性が増す
・情報発信が無料になったことで、情報を通じて繋がる人間関係の重要性が増す

このような例が身近に溢れていると言うことだ。
そしてこれらをひとまとめにすれば、

あらゆるITリソースが無料・無限になったことで、無限になれない人間の創造性と時間の重要性が増す

と言うことができるだろう。


 今後、機械ができるあらゆる作業は機械がするようになり、人間に残された仕事は「創造すること」だけになってしまうだろう。一見、それはとてもクリエイティブで楽しい世界だ。だけど実際は、クリエイティブな職に就ける人数は、非常に限られていて、多くの人にとって苦しい時代が来るのではないかと思う。
 その根本的理由は、一つの創造的仕事が影響を及ぼす範囲が、一つのルーチンワークが影響を及ぼす範囲に比べて、格段に大きいことだ。要するに、一日工場や事務所で手を動かして発生する金額には限界があるが、一日でひらめいたアイデアや研究成果は数億円の価値を発生させることができるということだ。金額だけでなく、動く人間の数も、桁違いになる。google, twitter, facebookなんかを見てみると分かる。何億もの人間がそのサービスを使うことに時間を使っている一方で、そのサービスを創りだしているのはほんの一握りの人間だ。これはつまり、一握りの人間が、60億の人生の時間の多くを満たしており、人類が産み出す総需要の大部分を持っていってしまっているということだ。要するに、創造的な仕事はルーチン的な仕事に比べ、需要側と供給側の人数に圧倒的なギャップが存在すると言うことだ。
 したがって、世の中の全ての人間がクリエイティブな職業に就くということはあり得ない。60億人の需要を満たすのに60億人のアイデアは必要ない。服をデザインすることで食っていける人間も、新薬を開発することで食っていける人間も、お札を印刷する機械を修理するスキルを持った人間も、深海の生物の研究に人生を費やすことが許される人間も、地球上に存在できる数は限られている。需要を超えて存在することはできない。

 だとすれば、単純労働は機械とITが全てやってくれる世界で、クリエイティブな仕事にありつけなかった人たちはどうなってしまうのだろう?どん底の人々が街に溢れてしまうのか、機械から人間を保護する法律が作られるのか、それとも、何か別の方法があるのだろうか。僕が死ぬまでには答えが分かるに違いない。