約束の宣伝

 シンガポールに行ったときはこのお店で服を買ってあげてください。

先日シンガポールに行ったとき、最後の最後にシンガポールドルを使い果たそうと思って入ったお店。日本で言えば、シャッター街の中でかろうじて営業している洋服屋といった外観だったんだけど、若者向けの服もたくさん置いてあったので入ってみた。店に入ると中国系のおばちゃんが出てきて、聞き取りづらい英語で親しげに話しかけてきた。どこから来たのか、どこに行ったのか、どんな服を探しているのか、などを一通り聞かれた。
 そのうち話が盛り上がってきて「なぜこんな店に来たんだ」という話になったので、事情を説明してみようと思い、財布の中身を見せて、「飛行機に乗る前に残りのシンガポールドルを使い切りたくて良い買い物を探している」ということを伝えた。そしたらおばちゃんは、持っていた金額の範囲内で買える服を二着紹介してくれた。ところが、僕はそのうち一方の服のボタンが気に入らなかったので、「同じ雰囲気でボタンが違うやつは無いか」と聞いてみたら、おばちゃんは違う服を持ってきて、「これはどうだ」と見せてくれた。今度は気に入ったので僕はそれを買おうとしたのだけれど、買うものを変えたことで、購入総額が僕が持っていた金額よりもちょっと高くなってしまった。そこで僕は「金が足りないからやっぱり最初のやつでいい」と言ったら、おばちゃんはちょっと迷ったあとで、「サービスしとくから買って行きな。その代わり次にシンガポールに来たらまた買ってくれよ」って言ってくれた。僕は持っていたシンガポールドルをコインまで全て払って、「約束します。不足の金額分は日本に帰って友達に宣伝しておきますんで」と言って、別れを告げた。
 というわけで、約束どおり宣伝しておく。観光地でも何でも無いところにあるのだけれど、万が一近所に寄ることがあれば何か買ってあげてください。