問いを立てた瞬間に勝負は決まっている


夕刻の満月@ストックホルム市庁舎(ノーベル賞晩餐会の会場です)

 研究やっててよく思うことだけど、うまくやっている人とそうでない人の違いの一つに「良い問いを立てられているかどうか」というのがあると思う。「良い問い」というのは「より一般化され、より影響範囲が広い」問いだ。平たく言うと

「この問題を解決すれば、より多くの人・場面の悩みに答えられる」という問いをどこまで追究できるか?

ということになると思う。当然、こういう問いを立てようとすると、広い視野を持って「色んな分野の人たちが共通して考えている問題の本質はどこにあるのだろう」ということを、一歩メタなレベルで考えなければならず、難易度は上がる。だけど、最初の段階でしっかりと考えて、仕事の目標を「良い問い」に練り上げることで、それ以降の「答えを出す」フェーズのコスパが格段に上がると思う。具体的には以下のようなメリットがあるのではないだろうか。

「良い問い」は下位概念を吸収できる

一般度の高い「良い問い」に答えることは、必然的に個別具体的なケースに答えることにもつながる。しかも、個々の問題を一つ一つ考えていくよりも効率的で、より広い分野の人間に説明できる結論が得られやすい。

「良い問い」は発展する

視野の広い「良い問い」に答えることで、「例外」や「法則」に気が付きやすくなり、個別具体的なケースを相手にしていては気づき得なかった、発展問題の発見につながりやすい。そうして得られた問題も同じように視点の広い「良い問い」であることが多く、広いケースに適用できる重要な答えを得ることにつながりやすい。

「良い問い」は周囲を巻き込むことができる

「良い問い」は「できるだけ色んな人達が考えていること」を相手にしようとするので、必然的に様々な専門家たちとコラボをする必要が出てくるし、色んな人たちからの関心を引きやすくなる。別々の問題に向かっていた個々人のエネルギーを、統一された問題の解決に集中させることができれば、すごいパワーが出るし、みんな楽しい。

「良い問い」は賞味期限が長い

上記の通り、「良い問い」は考えることが多く、発展した問いも生まれやすく、色んな人を巻き込みやすい。なので、長持ちする。これにより、小さな「答え⇒問い」を繰り返し、その度に専門を変えて新たに勉強する苦しみを味わう必要も無くなる。

なので言いたいことは「仕事は始まりが肝心、本当に解決すべき問題は何か、最初に本当に慎重に考えるべき」ということだ。イノベーションを起こすのは、「良い答え」ではなく「良い問い」だ。問いを立てた段階で勝負は決まっている*1。発展可能性の低い「悪い問い」を立ててしまうと、その問いにいくら尖った答えを出そうとしても、間違ったスタートを挽回するのは難しい。特にチームで仕事する場合は要注意だと思う。一度「悪い問い」で始まってしまうと、それが既成事実化し、立ち戻って考えようと言う責任を負える人も出現せず、リソースだけが消費されて、大した結果が出ないという悲惨な結果に終わってしまいがちだ。
 本当に「良い問い」、つまり「新たな学問分野が立ち上がるくらい、人を巻き込み、大きな問題に発展できるような問い」を立てることができれば、人生を費やすことも可能だと思う。一つの問題を追究して一生食っていけるなんて、専門家冥利につきるけど、そういう問いを見つけるのは本当に難しいし、運も必要だと思う。そのためには、そもそも悪い問いを立てないよう、普段から視野を高く持っておくことはもちろんだけど、悪い問いだと分かってしまった時に深追いせずに立ち戻る勇気もなければならないと思う。

スウェーデン・ウプサラ郊外の池

*1:ちなみにここに書いたのと似たような内容で「イシューからはじめよ」という本があって結構面白いので興味ある人はおすすめです