退職2週間前


冬の紅富士@田貫湖

 会社を辞めるって大変だ。この1か月、部署の上司と今抱えている10本ほどのプロジェクトのリーダー1人1人に対し、退職の意思説明と最終出社日に向けての残タスクや引き継ぎの調整をして回り、ようやく調整をつけ、退職願を提出した。やり残しが無いように去ってくれ、とは強く言われているものの、最後は希望日の退職を認めてくれたところは、やっぱり良い会社だなあと感じる。親しい人にも少しずつ打ち明けていて、送別会の段取りなど組んでくれたりして、辞めるやつのために忙しい中集まってくれるのは本当に申し訳ないけど、ありがたい(気付いたら明日から最終出社日まで、平日は毎日飲みになってる)。
 退職を打ち明けた時の反応は、「へぇ、勇気あるね、頑張って」というのから、「残念だ」「うらやましい」「おめでとう」と言ってくれる人、「本当にそれでいいの?」と引き止め説得してくれる人、色々だ。

 特に引き止めの言葉をかけてくれる人は、「会社の一員として」辞めてほしくないというより、「社会人の先輩として」中立な立場からの意見を言ってくれる人ばかりだったので、真剣に色々と考えさせてくれたし、その分自分の考えをより深めて明確にするきっかけを与えてくれた。色々と視点が追加されて、今は以下のような整理で自分の考えを伝えるようにしている。

3年で辞める⇒片道切符だという覚悟である

 引き止めの言葉で多かったのが、辞めるにしても3年はもったいない、というものだ。

・ようやく半人前、これからが仕事が楽しくなるところなのに
・3年の経験だと社会人としての市場価値ほとんど期待できない
・一つの組織に長くいるということも一つの価値だがそれを失って本当によいのか
・無いものねだりでは。転職を繰り返して失敗する人になってほしくない

といった意見だ。どれも、ごもっともだと思う。社会人経験3年で「社会のどこに行ってもやっていけまっせ」というスキルを身に着けられたとは到底思っていないし、社会人としての市場価値をつけることを優先するなら、多少の不満には目をつぶっても今の環境でしばらくがむしゃらにやってる方が、環境を変えてイチからいろいろやり直すよりも効率的だとは思う。
 だから、それでも3年で退職するというのは、僕はどこかの会社員として即戦力になれるような、社会人としての市場価値を身に着ける機会を放棄するということを意味する。今までは「研究者になれず路頭に迷っても会社員としてどっか雇ってくれるだろう」という考えが片隅にあったけど、この選択は「想像以上に片道切符」だという気持ちを強くしなければならないし、やるからにはアカデミアでトップを目指す勢いでやらなければ、これだけの可能性を放棄して出てくる意味がない。
 退職の話をした後、前所属の部長と飲みに行ったとき、「出戻りは絶対に許さん、行くならそっちで最後までやれ」という言葉をもらった。僕の中にまだ迷いのようなものがあると見透かされたかもしれない。結果として3年間の寄り道をして、研究界に戻ることになったのだから、今度こそよそ見をせずにやらなきゃだめだ。

「こだわり」を捨てきれない、「割り切って金稼ぎ」ができない

「結局オタクだった、ってことなんだと思います」
初めて退職を明かした相手に理由を説明するとき、この言い方で切り出すことが多い。ビジネスの世界では「100点を6個とる」よりも「60点を10個とる」やりかたのほうが正しい。クライアントの出す合格点が60点だとしたら、60を100にしても、そのクライアントから多少喜ばれ、多少の自己満足に浸れるにしても、儲けは一切変わらない。その時間で別の60点を取って、別のクライアントから合格をもらい、儲けを2倍にしたほうが効率的だ。当たり前のことだ。
 だけど、僕はそこで「効率良く60点で稼ぎまくる人生の先に何があるんだろう」的なことを考えてしまう。目の前の小さな欲を追うのであれば、平日を60点でとにかく省エネで片付けて、休日に稼いだ金を有意義に使う人生を安定的に繰り返して、幸せに生きる自信がある。現に、今その生活を堪能していて、十分に楽しい。だけど、小欲は大欲で制すべし、だ。人生1回だと考えたとき、やっぱり、60点が目的でも、休みが目的でも、金が目的でも、安定が目的でもない。フルパワーを出して、100点に仕上げる情熱というか、こだわりみたいなんを発揮したいし、それを大事にしたいし、それが評価される環境にいたい、と思ってしまう。要は、僕はオタクで、割り切って金稼ぎすることに向いてない、ってことだと思う。*1

人生冒険のほうがおもろい

 そして最後はこの説明につきる。僕は旅行でも人が行かないようなところに一人で行くのが好きだし、趣味も釣りとか自転車とか、サバイバル要素が高いアウトドア系のやつばっかりだ。生まれつきレベルで、「先が見えない環境」が好きなのだと思う。今から行こうとしているアカデミアの世界は、安定と高給からは程遠い世界だ。95%くらいの確率で、会社を辞めずに勤め通した同期のほうが裕福で安定した生活を送ることになるだろう。だけど、道中で人類を驚かせる発見があるかもしれないし、世界中のどこで暮らすことになるかも分からない。そんな中で「100%本気出さないと本当に死ぬ」という極限環境におかれながら、日々を必死に生きる。このほうが、60点を量産して休日に生きがいを見出す人生よりもデコボコしてて楽しいんじゃないか。
 何度考え直しても、人生1回しかない。このまま会社にいて、家庭ができたら間違いなく辞めにくくなる。いつか飛び出すなら、20代独身の今しかない。だから、見通しも自信もないし、アホだと思われるかもしれないし、実際アホなんだけど、分からなくて面白そうな方を選んでみる最後のチャンスだと思ったので選んだんです。それだけです。その分、できるだけサラリーマンにはできないことをしまくります。よろしくおねがいします。

*1:もちろん、ビジネスにも60点でなくて80点くらい出してやりたい、と思うような場面はある。けど、それでもやっぱ60点でも許されるんだろうなぁ、ということを考えてしまうと頑張れない